2023年度から東京都で助成が始まった卵子凍結。説明会には9,000人を超える方が参加し、参加意思を示した方も東京都想定の9倍に達するなど、女性の関心の高さが伺えます。東京都は2024年度においては、申請者全員に助成金を支給するとのことです(2024年3月12日現在)。
晩婚化が進み、不妊治療を行う方も増加傾向にある現代において、卵子凍結は女性の人生の選択肢を増やす素晴らしい手法です。しかし、万能なわけではありません。デメリットやリスクも理解したうえで、女性自身がどのような選択を取りたいのか自主的に判断していくことが必要です。
本記事では、卵子凍結のメリット・デメリットから、卵子凍結に必要なお金、東京都の助成金の内容についてまとめます。
この記事でわかること
- 卵子凍結とは
- 卵子凍結のメリット
- 卵子凍結のデメリット
- 卵子凍結に必要な金額
- 卵子の残り数(卵巣年齢)の検査方法
- 東京都の助成金の対象や金額
卵子凍結とは
卵子凍結とは、未受精の卵子を保存するために冷凍することです。卵子凍結には抗がん剤など卵巣に影響を与える医学的治療に先立ち行うメディカルな卵子凍結と、健康的な女性が将来の妊娠に備え卵子の状態を保存するために行うノンメディカルな卵子凍結があります。[1]
卵子凍結のメリット
若い時の卵子を保存し、将来の妊娠に備えることができる
妊娠に重要な要素の一つである卵子の質。卵子の質は、加齢とともに下がっていきます。そのため、若い時に卵子を凍結保存しておくことで、年齢を重ねてから妊娠を考え体外受精を行う際に質の良い卵子を使うことができます。また、病気になり妊活を行えない、もしくは卵子の質に影響がある治療を行うといった状況になることは誰にでも起こりうることです。健康なうちに卵子を凍結していれば、妊娠が可能になったタイミングで凍結しておいた卵子を体外受精に使うことができます。
人生の選択肢が増える
「妊娠には年齢の限界があることは知っているけど、仕事が楽しくなってきたからまだ子供は持てないかも」「いつかは子供が欲しいけど、子供を持ちたいと思えるパートナーに出会っていない」「子供が欲しいかどうかもまだわからない」といった悩みを持つ女性は多いのではないでしょうか。子供か仕事か、どちらかを選ばないといけないわけではありませんが、両立やタイミングを考えると意思決定が難しい。でもどちらかを諦めたくはないという声をcanvasでもよく聞きます。
卵子を凍結しておくことで、焦って妊活やパートナー探しをしなくてもよくなり、モヤモヤした気持ちを解消することに一歩近づくかもしれません。
自分で妊娠のタイミングや方法、仕事と両立するスケジュールなどを管理できると、自分の人生をコントロールする幅が広がりますよね。
卵子凍結のデメリット
保存した全ての卵子を使用できるわけではない
凍結保存した卵子が全て同じように出産につながるわけではありません。融解する際に卵子が変性・破損することもあります。また、質も全て同じではないため、融解の過程をクリアしても、受精や着床につながらないケースも多くあります。日本産科婦人科学会によると、凍結未受精卵子を用いた胚移植で子宮内に着床する確率は17~41%とのことです。流産や死産も含めると、赤ちゃん誕生まで至る確率は凍結卵子1個あたり4.5~12%です。[1]
保存しても使わない選択をとることになるケースもある
卵子凍結をしても、その後自然妊娠をし、結果凍結した卵子が無駄になってしまうことも考えられます。自然妊娠できる確率は年齢が若いほど高くなるため、もし卵子凍結を若い段階で行った場合、このケースが発生する可能性が高くなります。
日本産科婦人科学会によると、未授精卵子の使用率は5.2~7%に留まっています。[1]
金銭面・身体面の負担が大きい
卵子凍結は自費診療のため高額な費用がかかります(詳細は次の段落でご説明します)。
また、むくみや頭痛など身体面での負担がかかる可能性もあります。通常の月経周期では左右どちらかの卵巣から月に1つ卵子が放出されますが、採卵では一度に多くの卵子の回収を目指すため、排卵誘発剤という薬(錠剤や注射)を10~14日間ほど投与し、両方の卵巣で複数の卵子を育てます。この排卵誘発剤はホルモン剤のため、むくみ・頭痛といった副作用が出る可能性があるほか、場合によっては卵巣過剰刺激症候群(OHSS)という病気を引き起こすこともあります。
薬の投与は自分で行うことが多くなっていますが、投与期間中に複数回受診をしてホルモン濃度や卵巣の状態をチェックする必要があります。かかる時間はクリニックによりまちまちですが、半日かかるケースもあり、受診のために会社を休む方も少なくありません。
卵子凍結に必要な金額
ノンメディカルな卵子凍結は全額自己負担の自費診療となるため、高額な費用がかかります。凍結する卵子の数、使用する薬剤の種類によっても変わってきますが、東京都福祉局の調査によると、一周期あたり40~50万円の費用がかかるようです。クリニックによって計算方法も異なります。[2]
そのほか、将来使用する際には体外受精の費用として約50万円ほどがかかります。
また、一度に採取できる卵子の数が少ない場合は、何度か採卵を行う必要があります。採卵できる数が少ないかどうかは、年齢とAMHというホルモンの2つの要素によって「卵子の残り数(卵巣年齢)」をみることでおおよそ把握することができます。
卵子の残り数(卵巣年齢)の検査方法
ご説明したように、卵子の残り数を知ることが卵子凍結に向けたファーストステップとなります。卵子のもととなる細胞の数は生まれたときに決まっており、加齢とともに減少していくため、一般的には年齢が高いほど残り数は少ないということになりますが、個人差が大きくなっています。そのため、ご自身の実際の卵子の残り数について目安を知ることが必要です。
そこで、調べるべきホルモンが先にも挙げたAMHというホルモンです。AMHは抗ミュラー管ホルモン(anti-Müllerian hormone)の略称で、発育途中の卵胞(卵子を包む袋)から分泌されるため卵子の残り数と相関があるホルモンです。
AMHが低いと卵子の残り数が少なく、卵子凍結や体外受精の際に一度に取れる卵子の数が少ないことが予想されます。そのため、AMHの値が低い方は、採卵にかかる期間が長くなり、費用が高めになる可能性があります。
canvasの「AMH Check (卵巣年齢)」は病院にいかなくても、自宅で簡単に卵巣年齢を調べることができる検査キットです。結果は全てオンラインで受け取ることができ、年齢別の値との比較をグラフで見ることができるほか、無料で相談をすることもできます。卵子凍結が気になっていても病院へいく時間がない方や受診のハードルが高いと感じている方は試してみてはいかがでしょうか。
AMH Check (卵巣年齢)
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東京都の助成金の対象や金額
2023年度から始まった東京都の助成金事業ですが、実際にはどのような方が対象で、いくらを受け取ることができるのでしょうか。下記に情報をまとめてみました。[3]
※下記は、「令和6年度の卵子凍結に係る費用助成について」に関する2024年3月12日時点の内容です
対象者
東京都に住む18歳から39歳までの女性(採卵を実施した日における年齢)が対象です。
下記2点に当てはまる方は対象外となりますので留意しましょう。
※ すでに不妊症の診断を受けており、不妊治療を目的とした採卵・卵子凍結を行う方
※ 東京都若年がん患者等生殖機能温存治療費助成事業(小児・AYA世代のがん患者等の妊孕性温存療法研究促進事業)の対象となる方
要件
対象となるには、下記のすべてを満たす必要があります。
- 都が開催する卵子凍結に関する正しい知識を持っていただくための卵子凍結に係る対象者向けオンライン説明会に参加した後、調査事業への協力申請を行い、協力承認決定を受けること。
- 本人が説明会に参加した日から1年以内に、卵子凍結に係る医療行為を開始すること。 ※卵子凍結に係る医療行為の開始日が、本人が説明会に参加した日から1年を超える場合は、再度、説明会への参加が必要です。
- 1.の説明会への参加を申し込んだ日から未受精卵子の凍結が完了し都へ助成金を申請する日までの間、継続して東京都の区域内に住民登録をしていること。
- 1.の説明会に参加した後、都が指定する登録医療機関で採卵準備のための投薬・採卵・卵子凍結を行うこと。
- 採卵を実施した日における対象者の年齢が18歳以上40歳未満であること。
- 凍結卵子の売買、譲渡、その他第三者への提供は、いかなる場合も行わないこと。また、海外への移送は行わないこと。
- 卵子凍結後も都の実施する調査に対し、継続的に(令和10(2028)年度まで)協力すること。
- 卵子凍結に係る費用助成を受けようとする医療行為について、他の法令等の規定により、国又は地方公共団体の負担による医療に関する給付の対象とならないこと。
対象となる医療行為
助成の対象になるのは、採卵のための投薬、採卵、卵子凍結です。採卵に向けては、診察と検査が最初に必要となりますが、初診料・検査費用は助成の対象となりません。
そのため、少しでも気になる人は先ほどもご説明した自宅でできるAMH検査をやってみるのもお勧めです。
AMH Check (卵巣年齢)
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助成金額
助成金額は、下記の通り支給されます。
- 卵子凍結を実施した年度 上限20万円
- 次年度以降、保管更新時の調査に回答した際に、1年ごと一律2万円(最大5年間)
なお、既に凍結卵子がある方が使用する場合にも助成を受けることができます。対象者は妻の年齢が43歳未満であり、法律婚もしくは事実婚の夫婦である必要があります。その際の金額は、下記です。
-
1回につき上限25万円(最大6回まで)
※妻の年齢が40歳未満であれば6回まで、40歳以上であれば3回まで受給することができます
まとめ
本記事では卵子凍結のメリット・デメリットや必要なお金、助成金の内容までを解説しました。記事のポイントは下記の通りです。
- 卵子凍結を行うと、若い卵子で将来妊娠を目指すことができ、人生の選択肢を増やすことができる
- しかし、全ての卵子を使用できるわけではないこと、凍結保存しても使わない結果となる場合もあること、また金銭面・身体面の負担が大きいことに注意
- 卵子凍結にはおよそ40~50万円/回かかる
- まずは卵子の残り数(卵巣年齢)を調べることがおすすめ
- 対象になる人は、東京都の助成金を活用することもできる
卵子凍結は一見、魔法のようにも見えますが、実際は不確実性が高い方法であり、全ての不安を帳消しにしてくれるわけではありません。また、この方法が広がるにつれ、全ての女性が子供を持つべきという考えにつながることがあっては危険だとcanvasは考えます。
ですが、女性が自分の生殖に関する権利を持ち、自分で可能な範囲でコントロールできるようになることで、人生の選択肢が広がることは素晴らしいことです。
加えてcanvasとしては、卵子凍結というツールの市場拡大が進む中で、妊娠・出産・育児といった家族計画の話題が女性だけに閉じることなく、パートナー(男性)そして社会全体で議論できるようになることを、常々願っています。
将来子供を持ちたいかまだ分からない人も含め、一度ご自身の身体(卵巣年齢)について知り、卵子凍結の必要性を考えてみるのもよいのではないでしょうか。
参考文献
1) 公益社団法人日本産科婦人科学会 ノンメディカルな卵子凍結をお考えの方へ
https://www.jsog.or.jp/modules/committee/index.php?content_id=302
2)東京都福祉局 子供・子育て支援部 卵子凍結への支援の検討に関する 状況調査結果 2023年9月
https://www.fukushi.metro.tokyo.lg.jp/kodomo/shussan/ranshitouketsu/touketsu/joukyouchousa.files/ranshi-chousakekka.pdf
3)東京都福祉局 【お知らせ】令和6年度の卵子凍結に係る費用助成について
https://www.fukushi.metro.tokyo.lg.jp/kodomo/shussan/ranshitouketsu/touketsu/6nenndo.html